簿記でいう取引とは、経営の資産、負債、資本、収益、費用のいずれかに変動を起こすことがらをいいます。取引が発生すると、帳簿に記録しなければなりません。
取引の意味
簿記の取引は、日常生活で使われる言葉の「取引」とは必ずしも一致しません。大農具の予約注文や土地の貸借の契約をしても、その段階では簿記上の取引ではありません。一方で、経営の現金が紛失したり、建物が消失した場合は、経営の資産が減少し、費用が発生するので、これらは簿記上の取引であって、帳簿に記録しなければいけません。
取引の二重性と貸借平均の原理
取引は必ず借方と貸方の 2 面において変動を引き起こします。これを取引の二重性といいます。
次の場合を考えてみましょう。
- 4 月 1 日現金 ¥100,000 を出資して経営を開始した
(借方): 資産 (現金) ¥100,000 の増加 — (貸方) 資産 (資本金) ¥100,000 の増加
- 4 月 2 日現金 ¥50,000 を借り入れた
(借方): 資産 (現金) 50,000の増加 — (貸方) 負債 (昔入金) ¥50,000 の増加
取引を借方、貸方の結びつきで捉えることが、複式簿記の基本です。取引は、借方要素と貸方要素の結合関係として表すことができます。
なお、取引要素の結合関係は、借方要素と貸方要素とが 1 対 1 であらわれるとは限りません。例えば、土地を購入し、代金の一部を現金で支払い、残金を未払いにした場合は、借方は資産 (土地) の増加の 1 要素ですが、貸方は資産 (現金) 減少と負債 (未払金 )増加の 2 要素になってあらわれます。しかし、どのような取引においても、借方の金額合計と貸方の金額合計は同じです。したがって、数多くの取引があっても、すべての勘定の借方金額の合計と貸方金額の合計は等しくなります。これを、貸借平均の原理といいます。
取引要素の結合関係の例
(1) 現金 ¥50,000 を預金した
資産 (預金) ¥50,000 の増加 — 資産 (現金) ¥50,000 の減少
(2) 預金から ¥10,000 を引き出し、現金で受け取った
資産 (現金) ¥10,000 の増加 — 資産 (預金) ¥10,000 の減少
(3) 雇人費 ¥5,000 を現金で支払った
費用 (雇人費) ¥5,000 の発生 — 資産 (現金) ¥5,000 の減少
(4) 野菜 ¥10,000 を掛けで販売した
資産 (売掛金) ¥10,000 の増加 — 収益 (野菜収益) ¥10,000 の発生
(5) 売掛金が精算され、現金 ¥10,000 を受け取った
資産 (現金) ¥10,000 の増加 — 資産 (売掛金) ¥10,000 の減少
(6) 肥料 ¥20,000 を掛けで購入した
費用 (肥料費) ¥20,000 の発生 — 負債 (買掛金) ¥20,000 の増加
(7) 土地を ¥1,000,000 で購入し、代金のうち ¥700,000 を現金で支払い、残額を未払い (未払い金) にした
資産 (土地) ¥1,000,000 の増加 — 資産 (現金) ¥700,000の減少、負債 (未払い金) ¥300,000円の増加
(8) 借入金 (短期昔入金) ¥100,000 と利息 (支払利息) ¥12,000 を現金で支払った
負債 (短期借入金) ¥100,000 の減少、費用 (支払利息) ¥12,000 の発生 — 資産 (現金) ¥112,000 の減少