農業を経営するうえで、その収入・支出を事業として記録すること、つまり会計は必須です。農業における会計は、その他の事業の会計とは異なります。農業会計は、他の会計とどのように違うのでしょうか。この点についてみていきましょう。
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土地を多面的に利用する生物生産
農業は、土地を最も重要な生産手段として、植物・動物を育成する産業です。
農業経営は、そこでの環境条件、すなわち地形、土壌、水、気候などの自然条件を有効に活用し、市場で有利に販売できる作目を選ばなければなりません。ところが、ある作物の利益が多いからといって、その作物だけを連続して作る、つまり連作するわけにはいきません。水稲など、ごく一部の作物以外では、土地が悪化し連作障害が発生して、作物の収量が低くなったり、病気が発生して農薬が多く必要になったりして、利益が少なくなるからです。そこで、それぞれの作物の性質を考え、いくつかの作物を一定の順序で作付けする (輪作) ことが重要になります。
さらに、農業は季節的な生産であって、季節による労働量の偏りが大きく、また、収量や利益が気候の年次変動に左右されやすいという特徴もあります。生産物の価格変動に対し、短期的には生産量を調節しにくいことなども、農業特有でしょう。
また、作物や家畜そのものも、管理の良し悪しで、収入・支出は大きく変動します。作物や家畜は、同じ品種でも、成長生産の過程に管理の方が影響し、その性能が大きく変わってくるのです。
農業会計の特質
以上のように、農業は、土地の持つ自然地力を生かし、生物の成長・繁殖力を生かす産業です。このような土地の自然地力や生物の成長・繁殖力の変動は、捉えにくく、簿記記帳などの会計では、直接的にそれを示す数値はありません。
ただ、費用や刺激といった簿記会計が明らかにする数値の中から、何らかの形で、土地や生物の状態がわかってきます。つまり農業会計では、短期的な経営成績を計算することはもとより、その成績の判断に際し、長期的に見て、土地や生物を良い状態に保っているかどうかの点検が必要になります。どっちの性別を言う自然の持つ力の変動と、経営成績を示す会計上のスーツとの関係を読み取ることが、農業会計では大切なのです。
簿記の役割
簿記は、「経営の鏡」と言われます。これは、経営の実態を正確に知るためには、簿記に記帳することが大切であると言う意味です。
農家は、経営を営むために、現金、預金、大農具、家畜、建物、土地などを持っています。一方、営農資金の借り入れなどもしています。農業における経営の実態を知るためには、まず、これらが、一定期間後(決済時)にどのように変化したかを明らかにする必要があります。次に、一定期間に農産物の収益がいくらあり、そのために生産資材等の費用がどれだけかかって、利益をいくら生み出したか、すなわち経営の成果を計算する必要があります。これら2つの結果を得るためには、より毎日継続的に記録、計算を行うことが必要です。
農業では家族経営が圧倒的に多いのですが、多数の出資者によって成り立っている農業協同組合、農事組合法人、株式会社などの事業体では、簿記の結果をまとめ、総会(出資者の会議)に報告する義務があります。
簿記の結果は、報告のほかに、次のことに役立てることができます。
- 日常における経営の経営的運営
- 経営感覚の養成
- 経営の分析とそれに基づく経営の改善計画
- 納税の申告
会計の約束事
会計を行うには、次の3つの約束事があります。
会計の対象
農業会計の対象は農業経営です。したがって、家計の費用を経営の費用と混同したりすると、正しい経営計算をすることができません。農業経済は、経営と家計の境界がはっきりしない部分がありますが、それをできるだけ分けて取り扱う工夫が必要です。
期間計算
現代の会計では、経営は永遠に続く継続事業であると考えられています。言い換えれば、離農を全く考えない経営を前提にしています。そのために、会計の計算は、一定期間を区切って、期間計算としておこないます。一定期間の始めを期首 (または年度始)、終わりを期末 (または年度末) と言って、期首から期末までの期間を会計期間 (または会計年度) といいます。農業における会計期間は、ふつう、1 月 1 日から 12 月 31 日までの 1 年間です。
貨幣額による計算
会計は、金銭によって行われますので、大農具・家畜・建物・土地など、全て金額で表さなければなりません。
簿記の種類
簿記の種類には、業種別に、商業簿記、工業簿記、農業簿記、銀行簿記、建設業簿記などがあります。記載の仕組みからみれば、単式簿記と複式簿記に分けられます。
単式簿記
収支簿記とも言われます。現金の出入りを中心に、収入か支出かいずれかを判断して記入し、残高を出す仕組みです。現金出納帳の様式が単式簿記と言えばわかりやすいでしょう。誰でも容易に記帳ができますが、経営の内容詳しく知るには適していません。
複式簿記
正規の簿記とも言われます。原因と結果の2つの面から捉えて記入するため、経営の内容を正確に、より詳しく知ることができます。